2026年に入ってから、ツジカワに寄せられるご相談の質が、少しずつ変わってきたように感じています。「印刷で表現していた部分を、エンボスやデボスで置き換えられないか」「インクに頼らない加飾のバリエーションを増やしておきたい」——そうしたお問い合わせが増えました。

背景には、いわゆるナフサショックがあります。2026年2月末の中東情勢の緊迫化を発端に、印刷インクや溶剤の供給が読みにくくなり、価格も大きく動きました。カルビーがポテトチップスなど14種類の商品パッケージを白黒2色に変更すると発表したのは、その象徴的な出来事です。大手印刷会社は資本力で在庫を確保できても、中小のコンバーターには体力がないという現場の声も漏れてきます。

本記事では、こうした時代における「インクに頼らない加飾=エンボス・デボス加工」という選択肢を、版を製造する立場から整理してお伝えします。

なぜいま「インクに頼らない加飾」が見直されるのか

ナフサショックがパッケージ業界に与えた影響

ナフサとは、原油から精製される石油化学製品の基礎原料です。プラスチックや合成樹脂はもちろん、印刷インクの顔料・バインダー、それを溶かす溶剤、印刷機を洗うための洗い油まで、印刷現場で使う資材の多くがナフサを起点としています。

2026年3月以降、エチレン設備の減産が相次ぎ、グラビアインキやシンナー類で価格改定の発表が続きました。

価格よりも深刻なのは、「お金を出しても物が入らない」局面が出てきていたことです。「商材自体は何とか確保しても、さらにまた値上げするリスクもある。怖いのは物がなくなると仕事ができない」——この声は、現場の実感をそのまま表していると思います。

印刷・箔押しと比べて「変動資材」が少ない構造

ここで加飾の方法を、生産のたびに必要になる資材という観点から並べてみます。

  • 印刷:紙+インク+溶剤+版
  • 箔押し:紙+箔+版
  • エンボス・デボス:紙+版

ご覧の通り、エンボス・デボス加工で生産のたびに必要になる変動資材は、紙だけです。版は一度つくれば繰り返し使えます。

正直にお伝えしておきたいこと
エンボス・デボスなら資材を一切気にしなくていい、という話ではありません。紙はどの加飾方法でも必要で、紙の価格や供給も情勢と無縁ではありません。それでも「生産のたびに揃えるべき変動資材の品目が少ない」という構造そのものは、供給が読みにくい時代に小さくない強みです。

紙+版だけで成立する加飾原理

エンボス・デボスは、色や箔を「乗せる」のではなく、紙そのものを版で挟み込んで凹凸という形で表現する加飾です。原理的に、色材を必要としません。だからこそ、印刷インクや溶剤の流通に左右されにくい。これが、いま再評価されている本質的な理由です。

エンボス・デボスの仕組みの詳細は下記をご参照ください。

ツジカワのエンボス・デボス版が持つ強み① 表現の幅

「インクに頼らない」ことが「表現を諦める」ことにはならない——これは強調しておきたいところです。

腐食版でつくる繊細な絵柄

一般的なエンボス・デボスでよく使われるのが腐食版です。金属板を薬品で腐食させて凹凸を作る方式で、細かい線や繊細な模様を均一に再現できます。シンプルなロゴやパターンには腐食版が向きます。

彫刻版で再現する異素材感・有機的な立体感

ツジカワが得意とするもう一つの選択肢が彫刻版です。機械で金属を直接削り出してつくる版で、腐食版では出せない深さの変化・なだらかな曲面・有機的な立体感を表現できます。

過去には、こんな彫刻版の事例があります。

  • 革や布の質感を紙の上に再現するシボ表現
  • 羽根・葉脈・花など、自然のなめらかな起伏を写し取る立体エンボス
  • ポストカードや本の表紙に深い彫り・微細な彫刻を入れ、絵そのものを立体化した表現

「インクで描ききれない奥行きを、形で出す」——彫刻版はそういう用途に強い版です。詳しくは彫刻版による加工のページもあわせてご覧ください。

彫刻版によるエンボス・デボス加工

今回ご紹介した彫刻版の事例は、制作の背景を note などでもご紹介しています。

ツジカワのエンボス・デボス版が持つ強み② 生産性

表現の幅と並んで、いま強くお伝えしたいのが生産性の話です。エンボス・デボスは「専用の高価な機械が必要」というイメージを持たれがちですが、実態はもう少し柔軟です。

打ち抜き機で抜きと同時にエンボス・デボス加工

トムソン打ち抜き機で抜きと同時にエンボス・デボス加工を行う様子

パッケージの形を抜くためのトムソン刃を使った打ち抜き機をすでにお持ちであれば、その設備でエンボス・デボス加工も行えます。

ワンポイントの絵柄であれば、トムソン木型にエンボス型・デボス型を埋め込み、打ち抜きと同時にエンボス・デボスを施すことも可能です。工程数を増やさず、設備投資もせずに、加飾の表現を一つ追加できる——これは多くの加工現場にとって見逃せない利点です。

面付け板で段取り時間を大幅短縮

複数の版を一度にセットできるツジカワの面付け板

全判サイズの紙に複数の絵柄をまとめて加工する場合に効くのが、ツジカワの面付け板(めんつけいた)です。

あらかじめ版の取り付け位置に合わせた穴が空いているため、複数の版を一度にセットでき、版を外さずに位置を微調整できます。紙は温度や湿度で伸縮するため、大判ほど位置合わせの速さが全体の作業時間を左右しますが、面付け板を使えば段取りを大幅に短縮できます。

リピート品では、版を取り付けたままの面付け板を機械にセットするだけで再生産できるので、二回目以降の立ち上がりがさらに速くなります。

打ち抜き機で面付けシステムを活用したエンボス・デボスの実例としては、下記をご参照ください。

Gフルートダンボールへの大面積エンボス・デボス加工事例

検討するときのポイント

エンボス・デボスを選択肢に加えていただくときに、事前にお伝えしておきたいポイントがあります。

向いている用途・向いていない用途

相性がよいのは、ロゴや社名、ブランドマーク、質感で見せたい背景など、「形」で印象づけたい要素です。一方で、細い文字や小さな絵柄、色のコントラストで読ませたい情報は、エンボス・デボス単体では視認性が落ちることがあります。現実的なのは、すべてを置き換えるのではなく、組み合わせる発想です。「印刷+エンボス」「箔押し+エンボス」のように併用すれば、それぞれの強みを活かしながら、インクや箔に依存する面積を減らすことができます。

紙の種類・厚みによる仕上がりの違い

エンボス・デボスの仕上がりは、紙の繊維の長さ・厚み・コーティングによって大きく変わります。柔らかく厚みのある紙ほど深い凹凸が出やすく、コート紙やコーティングの強い紙では割れやヒビが入ることがあります。浅い凹凸の場合は、コート紙の光沢がエンボス・デボスを際立たせることもあります。ご相談の際は、想定している紙の種類・厚みをお知らせいただけると、より具体的なご提案ができます。また弊社では試作可能な工房が東京と大阪の2拠点にあるので、量産前に紙の選定から一緒にお手伝いすることも可能です。

メリット・デメリットの全体像については、下記記事でも整理しているのでご参照ください。

エンボス加工とは?(メリット・デメリット解説)

よくあるご質問(FAQ)

Q. コストは印刷より上がってしまいませんか?

一概には言えません。初期に版代がかかるため、ごく少量のロットでは印刷より割高になることがあります。一方、リピート生産では版を使い回せるため、ロットを重ねるほど一個あたりのコストは下がっていきます。なお印刷加工そのものは弊社では対応しておらず、印刷会社様に別途ご確認ください。

Q. エンボス加工であればナフサ不足の影響を全く受けませんか?

「全く受けない」とは言えません。紙そのものが値上がりする可能性、版を製造する金属材料や搬送に関わる燃料費が動く可能性は残ります。ただ、印刷インク・溶剤・洗浄剤・箔といった変動資材を直接消費しないぶん、影響の受け方が緩やかになる、というのが正確な表現です。

Q. 既存の打ち抜き機でも対応できますか?

多くの場合、対応できます。トムソン抜き機をお持ちであれば、木型にエンボス型・デボス型を組み込むことで、新たな設備投資なしに加飾の表現を増やせます。具体的な対応可否は、お使いの機械の仕様によりますので、ご相談ください。

Q. 小ロットでも依頼できますか?

可能です。印刷会社様によりますが、1,000部以下の小ロットに対応している会社様もあります。ただし、前述の通り版代という初期コストは発生しますので、ごく少量の場合は版代の比重が大きくなる点だけご承知ください。詳しくは加工会社様にお問い合わせください。

まとめ ― 「選択肢を厚くしておく」という発想

ナフサショックは、いつかは落ち着く局面が来ると思います。ただ、「資材の供給が読みにくくなる場面はこれからも起こり得る」——この前提は、もう元には戻らないのではないかと感じています。

そうした時代に大切なのは、ひとつの加飾方法に依存しないことです。印刷には印刷の、箔押しには箔押しの、そしてエンボス・デボスにはエンボス・デボスの表現力があります。加飾方法の引き出しを複数持っておくことが、結果として供給リスクに強いものづくりにつながります。

ツジカワでは、箔押し版、エンボス・デボス版いずれもご相談いただけます。

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